2025-11

どんな相手でも、好き嫌いを言わず、いつも、定位置についている。その白い粒は、何色にも染まり、自在に形を変える柔軟さをもち、どんな具材とも、絶妙にまざり合い、主役を演じることにこだわらない。食卓のレギュラーの座は、不動のものなのに、いばらない...

いつも、気にもとめず聞いていた足音に、「どうして？」と、わけを教えてもらった。どうして、はや足でバタバタ言ってるの？「忘れ物をして、あわててるんだ。」どうして、大きな音でドンドン言ってるの？「腹が立って、ついつい力が入ってしまうんだ。」どう...

「ド」・「ミ」・「ソ」は仲よし。みんなで交ざり合って一つになる。「ミ」と「ファ」はお隣どうし。でも、交ざり合おうとしない。黒鍵も邪魔していないのに、仲よくなれない。近すぎるのが、よくないのかなあ。少し距離があるくらいが、いいのかも知れない。...

－ ８月初め、南からの寒風が吹く街の中で、ぼくは途方に暮れていた －仕事に就いて５年目、少しずつ貯まっていた貯金をはたいて、学生の頃から夢見ていた海外旅行に行くために、成田行きの列車に乗った。旅行雑誌で見つけた、ニュージーランドでのホームス...

ケイタイの、スヌーズボタン３回目を止め、寝る前にセットした、温風ヒーターがぬくめてくれた部屋の窓側で、大きなあくびをしながら、布団からはい出た。結露のついたガラスをこすって、木々のゆれる東の山並みに目をやりながら、冷蔵庫から出した、夕べの肉...

結婚したら、妻が夫にしてくれる。子どもが生まれたら、わが子が親にしてくれる。今から考えなくていいよ。考えてなれるもんじゃないから。なるようになる。なるようにしかならないから。そう言ってくれた、先輩からのアドバイス。新しい一歩をふみ出すとき、...

箱から取り出した石けんを、手のひらにのせた。いい香りが、ぼくの鼻の奥に届いてきた。深い彫りを目立たせ、堂々としていた。その日から、朝から夜まで働き続けてくれた。激しくこすられ、丸っこい体を泡だらけにし、家族の体をきれいにしてくれる。身を削ら...

うだる日の仕事帰りに、一杯の冷えたビール冬支度をはじめた大地で、可憐にゆれるコスモス凍てつく北風の中で、小さな使い捨てカイロクシャミと鼻づまりがない、三月の寝床のわたしけっこうあるんですね、「小さなしあわせ」って