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迷子の29歳

- 8月初め、南からの寒風が吹く街の中で、ぼくは途方に暮れていた -仕事に就いて5年目、少しずつ貯まっていた貯金をはたいて、学生の頃から夢見ていた海外旅行に行くために、成田行きの列車に乗った。旅行雑誌で見つけた、ニュージーランドでのホームス...
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すぐれものたち

ケイタイの、スヌーズボタン3回目を止め、寝る前にセットした、温風ヒーターがぬくめてくれた部屋の窓側で、大きなあくびをしながら、布団からはい出た。結露のついたガラスをこすって、木々のゆれる東の山並みに目をやりながら、冷蔵庫から出した、夕べの肉...
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大じょうぶ、大じょうぶ

結婚したら、妻が夫にしてくれる。子どもが生まれたら、わが子が親にしてくれる。今から考えなくていいよ。考えてなれるもんじゃないから。なるようになる。なるようにしかならないから。そう言ってくれた、先輩からのアドバイス。新しい一歩をふみ出すとき、...
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石けん

箱から取り出した石けんを、手のひらにのせた。いい香りが、ぼくの鼻の奥に届いてきた。深い彫りを目立たせ、堂々としていた。その日から、朝から晩まで働き続けてくれた。激しくこすられ、丸っこい体を泡だらけにし、家族の体をきれいにしてくれる。身を削ら...
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あるんですね

うだる日の仕事帰りに、一杯の冷えたビール冬支度をはじめた大地で、可憐にゆれるコスモス凍てつく北風の中で、小さな使い捨てカイロクシャミと鼻づまりがない、三月の寝床のわたしけっこうあるんですね、「小さなしあわせ」って
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わすれていました

母に手を引いてもらって、入学式に行ったことを、叱られたくなくて、先生にウソを言ったことを、わが子に、後輩に、知ったかぶりしていることを、いつも誰かと比べている、つまらない人間であることを、わすれていました。わすれていました。わすれている人が...
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どちらもきれい

走っていると一番になれそうな気がして歩いているとおいていかれそうな気がしてでも、走っていた並木通りも歩いている、川沿いの土手もどちらもきれいです走り続けてきたぼくはいまは、歩いていますいつか、また走ってみます
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弱かったヒーロー

その日は、ウルトラマンだった。保育園のすぐ近くにある浜辺で始まった「ヒーローショー」園帰り、友だち3人と、久しぶりに海に向かった。その辺にカバンを置いて、その日もジャンケンで役を決めた。ジャンケンに勝ち抜き、主役になったぼくと、2匹の怪獣。...
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10センチ

10センチは、親指と人差し指を広げたぐらいでも、10センチのアリがいたら、こわくて、近よれないでも、10センチのゾウがいたら、かわいくて、手の平にのせたいきっと、10センチの大きさは、何かと比べて、決めているんだろうな…ねえ、ねえ、うつむい...
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一人間

一人の人間なんです。親にもらった名前をもつ一人なんです。でも生きていくうちに、ちがう名前がつきます。「後輩」、「先輩」。「新米」、「上司」。だから、ときどき勘ちがいしています。「ぼくには、ちょっと無理です」…と。「こんなことも分からんのか!...