小6の秋でした。
登校前に、畳に落ちていたつまようじを発見した。
拾い上げようと思ったけど、
面倒くさくて、縁側から庭に蹴とばした。
どこに落ちたかな? のぞき込んだけど…
んっ? ない… どこに?
畳のほうをもう一度見たけど、ない。
そうしていると、足裏に何か違和感が。
中指から少し内側に、何かが見えている。
ぐるっとへこみのある、持ち手のところ1cmくらい。
埋まっていた。つまようじの5分の4くらいが。
急に左足に痛みがやってきた。
親指・人差し指・中指でギュッと持って、引っ張ってみた。
びくともしない。
父は、仕事に行ってもういない。
洗濯物を干していた母に向かって、「抜いて~~~!」と叫んだ。
「どうしたが、これ!」
「何しよった!」と言いながら、思い切り引っ張ってくれた。
やっぱり、びくともしない。
「どうにもできんね。お医者さんに電話してあげるき。」と言う母。
電話を切ると言った。
「すぐ来てください、やと。」、「学校にも電話しておくき。」
「うん、わかった。」、「でも、どうやって…」
その後、母は続けた。母には免許がない。
「あんた、一人で行ける?」
大体、こういうことになる。
ぼくは行儀悪く左の靴のかかとを踏んで、そっと足をすべり込ませた。
町医者までの距離は、約1.5km
左足はペダルの上にそっと載せて、頼りの右足に力を込めた。
痛みをこらえて、ゆっくりと急いだ。
受付で、「ミツダです。」と告げると、
係の方が慌てた様子で、「すぐ入ってください。」と言ってくれた。
早い予約の患者さんに待ってもらって、診察室に入った。
お医者さんもとても驚いていたが、少しだけ笑っていた。
結局、つまようじを抜く医療器具は「ペンチ」だ。
体の大きな先生の手でも抜けずに、選んだ道具だった。
今から50年近く前の出来事です。
今は、歯をそうじするときだけに、使っています。