その日は、ウルトラマンだった。
保育園のすぐ近くにある浜辺で始まった「ヒーローショー」
園帰り、友だち3人と、久しぶりに海に向かった。
その辺にカバンを置いて、その日もジャンケンで役を決めた。
ジャンケンに勝ち抜き、主役になったぼくと、2匹の怪獣。
早速、ショーが始まった。
テレビで見るウルトラマンは、危なくなっても必殺技で勝ちきる。
でもぼくたちの芝居は、毎回、展開が予想できない。
2匹の怪獣に囲まれたぼくは、最後の必殺技「スペシウム光線」を発射。
でも、怪獣たちには効かず、ぼくを波打ち際に追い込んできた。
もう、逃げるしかなかった。
沖に向かって続く岩場をかけながら、時々ふり返って怪獣たちを確認。
2匹もひるまず、ぼくをさらに追い詰めてくる。
しかし、そのとき、怪獣の一人が叫んだ。
「あっ、沖のほうに怪獣が!!」
「えっ、まさか。ショーに本物の怪獣!?」
ぼくも沖のほうに向き直って、波間にもり上がる黒い影を発見した。
その後はご想像のとおり。突然ショーは終わり、3人は岸に向かった。
岩から岩へとび移り、必死で逃げた。
怪獣たちが、まず岸にたどり着き、ぼくも後を追った。
残された岩はあと一こ。
そして、やっと最後の岩に飛び移ることができた。
ところが、ここに悲劇の結末があった。
波をかぶったばかりの、海苔の広がるところに着地してしまった。
そのまま、潮だまりに向かってダイビング。… ザブーン!
海獣たちは笑いをこらえながらも心配顔に。… 大丈夫?
全身ずぶ濡れのぼくは、ただただ泣くしかなかった。
海から200メートルほど離れたわが家に、大泣きしながら帰った。
母に、鼻をすすりながら事の次第を伝えた。
その頃のぼくには「命からがら逃げてきた」一連の大事件。
母も、笑いをこらえながらも、最後まで聞いてくれた。
そして聞き終わると、母はつぶやいた。
- 室戸の海に、海獣はおらんで。
- 早よう、お風呂に入ってきい。
最近になって、ヒーローショーの現場に出向いてみた。- 確認できた。
岩場から少し離れた沖のほうに、波間に見え隠れしている岩が一つあった。
「あれか…」
「あの時、寄り道せずに帰っていたらよかったなあ…」
「室戸の海に、海獣はおらんで。」… よく思いついたなあ。
